第2回トークセッションイベント実施レポート
皆さんこんにちは!しまチャレ2024事務局です。
去る9月5日(木)に、しまチャレ2024のトークセッションイベントの第2回を開催しました!
「『しま』のクリエイティブな仕事事情」をテーマにした2回目のトークセッションイベントは、五島市にお住まいで草草社代表 有川智子さん、壱岐市にお住まいで有限会社睦設計コンサルタント代表取締役 松本隆之さんのお二人をゲストとしてお招きし、ファシリテーターの(一社)離島総合研究所代表理事 上田嘉通が、島での仕事の様子を伺いました。
近くで寄り添い、地域の個性を伝え、身近な暮らしを楽しくする。
五島での暮らしを肯定する、有川さんの仕事。
五島市で生まれ長崎市で育った有川智子さん。大学でデザインや建築を勉強され、6年の社会人経験を経て2011年6月に五島市にUターンをしました。Uターンをしてすぐ草草社を立上げ、デザインの仕事をはじめます。
島でデザインの仕事なんてできるの?と思われる方もいるかもしれませんが、五島市は製造業や観光業、農業などが盛んで、商品を作るのでラベルを作ってほしい、ポスターを作ってほしいなどの需要はたくさんあるそうです。今では9割以上が島のお客さんだそう。
仕事をする上で、有川さんが大切にしていることを伺いました。
・「近くで寄り添いながら一緒に作る」
島外のデザイナーは島へわざわざ取材に来なくてはいけませんが、有川さんはずっと島にいます。旬の時期に写真を撮影したり、商品の製造工程を丁寧に追っていける。さらには、パンフレットなどの依頼に対しては、春夏秋冬どの時期にも島にいるので、良い瞬間を捉えることができる。これが島にいるデザイナーの強み、とのことでした。
・「固有の文化・風土を読み解き、伝える」
どの島にもどの地域にも、長く伝わる歴史や風習、島の人が大切にしていること、特産品や名物というアイデンティティがあります。五島では、キリスト教信仰、かんころ、椿、魚など。こうした地域の個性について、尊敬の気持ちで興味を持って学んで、素材を収集して大切に育てて発信することで、仕事の幅が広がってきたそうです。
生活とデザインの距離が近く、やりがいがあると同時に、景観施策や文化財保護などだけでは守れない大切なものが、デザインを通して守っていけるのではないかとも話されていました。
・「身近な暮らしを心地よく楽しくするために」
また、人口が減ったり、お店がなくなったりしていく地域の中で、自分が心地よく暮らすために何ができるかを考えて取り組んでいるそうです。空き店舗を改装して「ソトノマ」というカフェをはじめたり、部活をしている子どもたちを応援するため、「ごとうごちそうさま食堂」という取組をはじめたり、地域のニーズを丁寧に把握して、放課後児童クラブ「おうとうの家」を立ち上げたりしています。
加えて、一棟貸しの宿泊施設「菜を」もはじめ、日本中、世界中から人が訪れる場所になっているそうです。これらの施設が自宅兼事務所の近くに集積していてエリアとして楽しそうな場所になっているのが特徴だと思いました。
楽しそうなところに、語りたい人が集まって、楽しそうなことが起こる。公的な力だけでなく民間の「楽しそう」の連鎖も大きいのではと話されていました。
これから島に来る人にとって難しく感じられるであろうこととして、「見積り(島での価格設定)」「季節変動(夏と冬の繁閑の差)」「心折れずに続けること(島で重宝され忙しくなってしまう)」を挙げていただきました。
社会ストックをつくる立場だからこそ、地球に、自然に貢献できるものを。
地域の未来を見つめる、松本さんの仕事。
松本さんは、壱岐市出身、壱岐市育ちで、島外の大学、社会人を経て20年前に家業である建築設計事務所を継ぐためにUターンしました。モクヨンビルという施設を拠点に、地方創生のモデルを発信していきたいと思って取り組んでいます。
松本さんが設計、運営もされているモクヨンビルは、脱炭素の時代に貢献できる木造建築を考え、森に眠る国産材のストックを環境負荷の小さい形で建築に置き換えることにチャレンジしたものだそうです。「あらわし」という木材が見える形で仕上げている日本で初めての木造雑居ビルです。
柱や梁は隣の対馬のものを使いたかったそうですが、建築基準法の関係で断念し、宮崎県産の木材を使用、床材などは長崎県産材を使用しています。できるだけ地産地消になるよう、心がけていたそうです。
1階にはカフェ、2階は簡易宿泊施設、3階はコワーキングスペース、4階はレンタル個室と、さまざまな機能が入った複合施設となっています。
松本さんは、モクヨンビルだけでなく、島の活性化に繋がるエリアブランドの確立を目指しています。モクヨンビルの周囲には飲食店、文化施設、天然温泉施設などがあり、さらに、アスレチック、スポーツクラブ、モルックセンターコート、子どもの学びと遊びの場、島のアートプロジェクトなど、たくさんのプロジェクトが進行中だそうです。とても楽しそうなエリアになっていきそうな予感がします。
プロジェクトを通じて、子どもたちに木造建築とSDGsの関わりを伝え、循環型社会について考えるきっかけを提供したいと考え、小中学生を対象にした木造建築ワークショップ、高校生の年間継続プログラムである総合的探究授業の他、修学旅行のSDGs教育体験プログラムへの対応を検討しているそうです。
また、社交の場として異業種交流やワークショップを開催、パーティーウェディングや成人式やウェディングフォトなどにも活用いただいているようです。
「天長地久(天地が永遠に変わらないように、物事がいつまでも続くこと)」という言葉を棟札に掲げ、地球環境と人類が共存できる美しい星であり続けるように、という想いを込めているそうです。
褒め続けて、地域肯定感を高める
島の歴史や風習など、地域のアイデンティティを大切にする有川さんですが、島の方にとっては当たり前の風景や暮らしであり「うちには何もない」と感じている方が多いのではないでしょうか。そこで、有川さんに、地域のアイデンティティを捉える秘訣をお伺いしてみました。
有川さんの秘訣は「とにかく褒め続ける」。褒め続けることで、認めてもらえた気になり、自己肯定感ならぬ地域肯定感が高まっていくんだそうです。課題を見るというより、良いところを見つけて褒める、ということを大切にしているとのことでした。
これから島に入っていこうとする方にとって大切なキーワードな気がします。
地域に残るものをつくる立場としてできることを
循環型社会を目指し、建築を通じて視座の高い取組をされている松本さんですが、そのような考えに至った背景をお伺いました。
パリ協定によって2020年以降の地球温暖化対策の国際的な枠組みが定められたり、省エネ法が改正されたりと、SDGsや脱炭素というキーワードが建築現場に与える影響は大きくなっている中で、小手先の取組ではダメだろうと、社会ストックを作っていく立場として貢献できることがあるのではないかと考えたのだそうです。
2019年に建築基準法の法改正があって、制度上は中大規模の木造建築物が可能になったものの、都会では経済合理性が最優先され具現化されていない状況でした。そんな状況を見て松本さんは、地方からその事例をつくろうと考え、モクヨンビルの構想になっていったそうです。
お客さんが近いからこそ、逃げられない
出身の島に戻って仕事をされるお二人に、本土と島での仕事の違いを伺ってみました。
お二人の共通の回答だったのは「お客さんとの距離の近さ」。お客さんが近いということで、下手なものはできない、逃げられない厳しさがあるということでした。口コミで評判が広がるのも早く、1つ1つの仕事にしっかり向き合っていかないと、長く島で仕事をしていくのは難しいというお話をいただきました。
島に入っていく最初の1歩は?
これから島で何かをチャレンジしたいと思う方に向けて、最初の1歩はどのように取り組んだらいいか、お二人に伺いました。
有川さんからは、「自分が何者で、どんなことを考え、何をしたいのか」、簡単な企画書のようなものを作って伝えられると良いとコメントいただきました。そうすることで、自分のことを知ってもらえ、アドバイスなどをもらうことにもつながっていくそうです。
松本さんからは、「まず島に行ってみて、自分の目で見て、自分の肌で感じることが大切」とコメントいただきました。長崎の島は、近くであっても全然違う環境なので、行ってみないとわからないことが多いそうです。島が肌に合わずに帰ってしまう人もいるため、自分の目でしっかり確かめることは大切とのことでした。
自分がおばあちゃんになったときにお茶飲み友達が欲しい
高い視座をもって事業に取り組まれるお二人。
その視座はどのように獲得されたものなのか、伺ってみました。
有川さんは、時間軸を長く見ているとのことでした。「自分がおばあちゃんになったときにお茶飲み友達が欲しい」という可愛い表現をしてくださいましたが、お茶のみ友達が来てくれるためには、ここが楽しい場所でなければいけない。子どもたちの「こんにちは」という声を聞くためには学校が維持されなければいけないし、学童なども必要。自分がここでどれだけ楽しく暮らせるかを考えると、あれが欲しい、これが欲しいという事業のタネが生まれてくるのだそうです。
松本さんは、「人に還元できるものに興味がある」とのことでした。建築の世界では空間的な新しさ、素材の新しさなどが評価をされ賞を獲得したりしますが、松本さんの興味はそのようなことよりも、人や地域に還元できる、役に立てる建築であるかどうか、がとても重要というお話でした。
自分の得意なことを、地域の可能性と掛け合わせる
お二人のお話を伺っていて、デザインや建築は手段としてあるものの、「自身の得意なこと、好きなことが、地域の課題や可能性に対して、どう関わりを持っていけるのか」を考えて今のお仕事をされていると感じました。しまチャレへの応募を検討いただいている皆さまも、自分の得意を活かして、「しま」との関わりを深めるアイデアを考えていただけたらと思います。
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